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ichinicsの主にマンガ日記

「BEASTERS」1巻/板垣巴留

動物たちが通う学園を舞台に描かれる、動物たちの「ヒューマンドラマ(作者コメントより)」。
主人公は演劇部に所属するハイイロオオカミのレゴシ。
物語はある日、学園でオスアルパカのテムが殺されていたところから始まります。
その事件をきっかけに、学園に通う草食動物たちは、同じ学園の生徒である肉食動物たちに疑いの眼を向けるようになっていくのですが、中でもレゴシはテムの死について思わせぶりな発言をしたうえに大型肉食獣である、ということでより多くの警戒の眼を向けられてしまいます。
しかし、レゴシはあくまでも虫を愛する物静かなハイイロオオカミ
結局レゴシがテムの死について言いたかったことについては無事誤解が解けるのですが、そこから演劇部の舞台製作過程でさらなる「事件」が起こってしまう。

レゴシの内面で、擬人化された動物としての「理性」と動物としての「本能」がせめぎあうシーンには色気すら感じる迫力がある。
そんなレゴシと対になる役割を持っていると思われるのが、演劇部の役者長、という役職につく学園のスター、アカシカのルイ。
肉食獣としての力を持っていながら頭を低くして暮らしていたレゴシと、草食動物でありながら肉食動物を恐れることなくそのカリスマ性をもっていつも堂々としているルイ。
今後はこの2人が学園の英雄的地位「ビースター」の座を競うお話しになるのかなーと思います。

肉食動物と草食動物が理解しあうことはできないのか? というテーマはディズニーの「ズートピア」を連想させるかもしれません。
しかしズートピアのテーマが「差別」と「偏見」であったのに対して、この「BEASTERS」は彼らの「本能」に重きが置かれているような気もします。

ところで、この作品は週刊少年チャンピオンで連載されているのですが、チャンピオンって面白い雑誌だなーと改めて思いました。
動物たちが魅力的に描かれている作品ながら、その絵柄は独特で、雰囲気はどちらかというと80年代の少女マンガ(特にレタリングとか…!)に近い。
これが週刊少年誌で連載してるっていうのが面白いし、でもチャンピオンはCMなどを見ていても「弱者に寄り添う」というテーマがあるような気もするので似合っているような気もする。
ともかく今後の展開がとても楽しみな作品です。

「トーキョーエイリアンブラザーズ」1,2巻/真造圭伍

タイトルの通り、東京で暮らすエイリアン兄弟のお話。
生活感溢れる東京の風景描写、そして2人のエイリアンが垣間見せる異物感にぞっとしつつ、彼らを魅力的にも感じたりするのが楽しい。

トーキョーエイリアンブラザーズ 1 (ビッグコミックス)

トーキョーエイリアンブラザーズ 1 (ビッグコミックス)

1巻は、先に地球で暮らしていた弟、冬ノ介のもとに、兄(夏太郎)がやってくるところから始まります。
リア充な大学生としてうまくやっている冬ノ介に対して、夏太郎は地球に慣れていないこともあり失敗を連発する。
2人(?)は「地球移住計画」を企てる宇宙人であり、東京で暮らしながら「人間」を学んでいくのですが、実は冬ノ介は「ダメな兄がこの星に順応できたら、その時が地球移住計画を発動する時」であるという指令を受けているのでした。
その順応の条件は、夏太郎が「仕事につき一人前になる」そして「人間の恋人をつくる」こと。

口下手で正直な夏太郎は取り繕うことが下手ゆえに、エイリアンであることがバレそうになったりもするのですが、2巻では徐々に夏太郎の正直さ、純粋さみたいなものに惹かれる人間たちが現れます。
そうやって夏太郎がポジティブな意味での「感情」を学習していくのに対して、ずっと人間に対して距離を保ち、兄を下に見ていたような冬ノ介は初めて自分の感情を持て余し、それが「嫉妬」であることを知るんですよね。
ここでようやく、正反対な兄弟が互いに唯一無二、地球で2人ぼっちなのだなということが立ち上がってきてぐっときます。
続きはどうなるんだろうな~。人として地球で暮らすことにしてしまう…とかそういう終わり方しか思いつかないけど、でも2人が人間とどう関わっていくのか、そしてどういう感情を知るのか、もう少し見ていたいです。

トーキョーエイリアンブラザーズ 2 (ビッグコミックス)

トーキョーエイリアンブラザーズ 2 (ビッグコミックス)

私がこの作品を好きなのは、何よりも2人が暮らす部屋の描写にあります。細部まで細かく描かれていながら、時間の流れとともに様々なものの位置が変化していたりするのが最高に楽しい!


例えばこの2枚を見比べてみても、物干し竿の向こうに立てかけてあるものが変わっていたり、前景にある大根の頭栽培がなくなってたり、調味料っぽい瓶が置きっぱなしになってたりするんですよね。細かい…!
このままのセットで深夜ドラマとかになったらいいな~とか考えています。
なるとしたら冬ノ介が瑛太さんで夏太郎が柳楽さんかな~もうちょっと年下かもな~とか考えています。楽しい。

■1話はこちらからためし読みできます。
spi-net.jp

■関連
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「LINBO THE KING」1巻

『千年万年りんごの子』の田中相さんが描く近未来アクションSF。
物語の舞台となる2086年のアメリカでは、かつて多大な犠牲者を出した、人の記憶を食い荒らす奇病「眠り病」が再発しつつあった。
任務中に片足を失うという事故にあった主人公は、その眠り病を治療する「ダイバー」の「コンパニオン」にスカウトされる。

LIMBO THE KING(1) (KCx)

LIMBO THE KING(1) (KCx)

スカウトの理由は、「LINBO THE KING」と呼ばれる伝説的なダイバーとの適合率が非常に高かったこと。
会えばわかると思うよ、と言われて半信半疑で会いに行き、「そう」だとわかる場面はとても印象的でぐっときます。しかもこの2人がまったく正反対のタイプでそういう対称的な2人が運命のタッグってすごくいいですよね…。
1巻では2人が始めてのダイブに挑むまでが描かれているため、眠り病の治療過程についてはまだ詳しく描かれていないのだけど、どうやらダイバーとコンパニオンは2人1組で治療に当たるという仕組みになっていて、ダイバーには人の記憶に関与できる能力があり、コンパニオンにはダイバーを現実世界に連れ戻す能力があるようです。

その記憶世界の不気味さ、特に「連想の扉」の場面などはとても見ごたえがあるので、「記憶」の世界を扱った作品、例えば三宅乱丈『ペット』や映画『インセプション』などが好きな人にはぜひおすすめしたい作品です。

この作品は1巻が出る前に友人から「バナナフィッシュ好きなら」とオススメされた作品でした。
そのときは田中相さんでバナナフィッシュ? と少し疑問に思ったのですが、確かにアメリカを舞台に描かれていることや主人公たちの会話のテンポ感など、雰囲気はバナナフィッシュなどの、80年代後半にあった海外を舞台に描かれる少女マンガに近いところがあると思いました。
というところでふと昔コミティアで買った田中相さんの本を見返してみたら、それもアメリカが舞台だったので、きっと暖めてきた舞台設定なのだろうなとも思います。
テーマ的にも物語の雰囲気としてもとても好みの作品なので、続きがとても楽しみです!

「ACCA13区監察課」6巻(完結)

架空の国の、各地域を監察するACCAという組織のお話。主人公のジーンが視察して回る各地域の特色や名物が面白くてこの世界をもっと知りたいと思うような作品で、シリーズが始まった頃はオノ・ナツメさんの「リストランテ・パラディーゾ」や「COPPERS」のイメージの延長線上にある、ある組織を舞台に活躍する紳士とおいしいものを描くシリーズというイメージでした。
しかし、ジーンの友人でもあるニーノのもう一つの顔と、ジーンの生い立ちが明らかになってがらりと雰囲気が変わった。
特に、この最終巻で視察される2つの地域の対照的な姿は印象的です。これまで視察してきた地域が丁寧に描かれていたのもこの完結に向けてだったのか、と圧倒される思いでした。
登場人物が多い作品ながら、それぞれにしっかりと役割があるのも良かったなぁ。「ACCA13区監察課 P.S.」という番外編の連載も始まるとのことで、そちらではきっと本編では描ききれなかった背景が掘り下げられていくのだと思うとそちらも期待が高まります。

そして今月からいよいよアニメも放送開始。
完結巻まで読んで伏線を回収しながらアニメを見るも楽しみですが、アニメを見てから漫画で伏線回収するのもきっと楽しいと思います。
しかもこの作品にはかっこいい人がたくさん出てくるんですよね!
個人的にお気に入りだったモーヴ本部長が田中敦子さんなのが最高のキャスティングだと思っています!楽しみだー!
acca-anime.com

2016年の漫画!! まとめ&好きだったベスト10

2016年まとめ

2016年も面白い漫画をたくさん読みました。
昨年末に引越しをしたのですが、なぜか引越ししてから本棚がひとつ増えたんですよね。そしてその棚の半分くらいが既刊…という年でもありました。
新しく好きな作家さんを見つけると、その人の過去作全部読みたくなるのでそういうことになるのですが、今年は特にTLでおすすめされてたりしたのをきっかけに商業BLで新しく好きになる人が多かった。具体的には、紀伊カンナ(FEEL YOUNGでの新連載*1楽しみ)、はらだ、のばらあいこ、梶本レイカ、等々の既刊を買い集めたりしました。
それから今年は、長い連載の完結も多かった。
中でも「それでも町は廻っている」と「第七女子会彷徨」の2作品が終わった年、というのは感慨深かったです。両作品ともに毎巻楽しみにしていたので寂しさもあるのだけど、完結までほぼリアルタイムで追いかけられたことが嬉しくもあった。
それ町」は9巻に出てくるべちこ焼きの話が本当に好きです。
それから自分が買い続けてた作品だと「おんなのいえ」「昭和元禄落語心中」「ぼくらのへんたい」なども完結でした。

しかし2016年で何より忘れられない出来事といえば、吉野朔実先生が亡くなられたことです。
私にとって大島弓子吉野朔実は学生時代からずっと特別な漫画家です。憧れもあいまって考え方にかなりの影響を受けたと思う。
本当に寂しいですが、これからも大切に、作品を読み返していきたい。

2016年の漫画ベスト10

10位「僕と君の大切な話」/ろびこ

となりの怪物くん」のろびこさんの新作!
不器用な主人公2人のやりとりが本当にかわいかった。
2巻はまだかなー思ったら、作者さんが体調をくずされていたとのこと。11月に連載がされたと作者さんのブログにあったので、新刊を楽しみに待ちたいと思います。

僕と君の大切な話(1) (KC デザート)

僕と君の大切な話(1) (KC デザート)

9位「AIの遺伝子」/山田胡瓜

人間とヒューマノイドが共存して暮らしている世界を舞台に描かれる連作短編集。2016年だけで3巻まででていますが、どの巻にもぐっとくるお話があってすごい。
今年は「電王戦」の話題や、AIの書いた小説の話題、などAIの今後について考えることが多かっただけに、2016を象徴するような作品だったなと思います。

8位「昭和元禄落語心中」/雲田はるこ

今年出た10巻で完結。全10巻を俯瞰で思い出してみると、その構成の緻密さに驚かされる。2016年はアニメ化もあってからの完結で、その過程を追えたこともとても楽しかったです。
来年は2期があるとのことで、それもとっても楽しみです!
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7位「あげくの果てのカノン」/米代恭

今年初めて知った作家さんですが、個人的に「信仰」と「恋愛」の境目みたいなことに興味があるので、続きがとても楽しみ。
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6位「春の呪い」/小西明日翔

絵柄もキャラクター感情の描き方もとても好きな作品だった。
作者さんのインタビュー*2を読んで、もともと小説として書いていたお話だったと知り、腑に落ちたような気持ちにもなりました。今後がとても楽しみです。
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5位「A子さんの恋人」/近藤聡乃

1巻が出たのは昨年ですが、2,3巻が出た今年は特にTwitterなどでいろんな人の感想(というかA太郎派かA君派かみたいな話)を読むのが楽しかったので、2016年の1本!という感じがします。
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4位「推しが武道館いってくれたら死ぬ」/平尾アウリ

女アイドルを推してる女ヲタが主人公の物語。そりゃ主人公にはちょっとおかしいところもあるんですが、個人的には結構同意しかないんですよね…。
「推す」という感情に興味がある人にはおすすめですし、アイドルを推したことがある人には全力でおすすめです!
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3位「こいいじ」/志村貴子

ずーっと幼馴染に片思いをしているアラサーのまめちゃんの物語。、幾度か告白しているものの全て玉砕、その幼馴染は既に亡くなっている妻のことを今も思い続けている、という完全に勝ち目のない片思いのお話。
私は本当に、勝ち目のない片思いに打ち砕かれる感じのお話が好きでね…。心臓に悪いと思いつつ毎巻毎巻せつなくて転げまわってます。
特に今月でた5巻は「守る家族のあるひと対ないひと」のような構図になっていて、本当にしんどい…。でもとにかくめちゃくちゃ面白いのでおすすめです!

2位「WHITE NOTE PAD」/ヤマシタトモコ

ヤマシタトモコさんの漫画はどれもすごく好みなんです。それは、たぶん、表情の描き方がすごく好きだからのような気がしていて、この作品や「花井沢町公民館便り」のように、その状況を経験したことがないようなお話でも、表情ひとつに気持ちが重なるような感覚がある。
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1位「コオリオニ」/梶本レイカ

読み終えてすぐ読み返して、それからもふと開いては冒頭から読み返してしまう作品だったし、何度読んでもその展開の緻密さと、ラストシーンの完璧さに驚かされる。
興味をもったときはあちこちで品切れで、手に取るまでかなり時間がかかったのですが、本当に読めてよかったなと思っています。
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2015年のベスト10はこちら
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「WHITE NOTE PAD」(完結)/ヤマシタトモコ

女子高生「葉菜」と中年男性「木根」の身体と心が入れ替わる、というところからはじまるお話。
今年は同じ男女入れ替わりもの作品でもある「君の名は。」が大ヒットしましたが、その感想として多くの人が挙げているポイントに、入れ替わっているときの声の演技がすごい、ということがあると思います。
この「WHITE NOTE PAD」は、それを「表情」を描くことでやっているような気がする。入れ替わる前のことはあまり描かれていないけど、その表情から、かつての身体でその表情を浮かべているその人が見えるような気がする。
ぱらぱら見返してても、あ、この顔好き、って思うところがたくさんある作品。

1巻では若くて美しい女子高生の身体を手に入れた「木根」がそのことを『強くてニューゲーム』と称する場面が印象的だった。対する「葉菜」は元来の内気な性格のまま、なんとか日々を歩み始める。
しかし2巻に入ると、2人の関係が変化しはじめる。「見た目」で人生が変わってしまったことを受け入れつつあり、恋とかしたかった自分は「もういない」という葉菜。
その言葉を聴いた木根は、彼女のなりたかった彼女になってやりたい、と言う。
変化を恐れない「葉菜」と変化を恐れる「木根」。

見た目の自分と中身の自分が混ざり合って、相手を分身のように感じる、というその構図を、もちろん体験したことはないのに、読み進めていると実感できるような気持ちになっていく。
それは、物語を自分の中に取り込むということと、少しは似ているのかもしれない。
木根の方に年が近い自分としては、葉菜の若さが眩しくもあり、同時に、この物語に描かれているものが希望だと思うこともできる。

どれだけ他人と混ざり合っても、見た目が変わっても、やはり自分は自分でしかない。自分が自分であるという証明は自分にしかできない。誰にとっても、未来はまっさら。
そういう話だと思いました。

しかし同時期に完結した「花井沢町公民館便り」もこの「WHITE NOTE PAD」も、誰も経験したことのないはずの設定ながら、読んでいるうちに引きずられて「自分だったらどうするか」と想像してしまうのが本当に面白かった。
ヤマシタさんこの時期連載3本あったはずなのに本当にすごい。好きです。

「花井沢町公民館便り」(完)/ヤマシタトモコ

2055年、シェルター技術の開発事故に巻き込まれ、生命体の出入りができなくなってしまった小さな町、花井沢町を舞台に描かれる連作短編シリーズ、完結巻です。

各話タイトルが「公民館の前」で撮られた写真(?)になっているのだけど、定点観測であるからこそ、人が出入りしない町が朽ちていく様子がありありと映し出されてしまっている。
公民館が比較的きれいである間は、閉ざされた中でも希望をもって生きている人のお話が多いのだけど、この完結巻では1巻第1話から連続して描かれている「希」という女の子が最後の一人になるときが描かれている。

【以下内容に触れています】

最後の一人になったことと、町内の建物に倒壊の恐れがある、ということで、最終話では、希のために無人ロボットを使って家を建てるという案が持ち上がる。
希の恋人であり「外」の人間でもある総一郎と一緒に暮らすことが可能になり、それは希望のある話にも見えるのだけど、
境界の外にいる、自由な人間の生活を目の当たりにすることはやはり残酷で、つまり隔離された生活の不自由さや行動を制限されること以上に辛いことを知ってしまった瞬間でもあったのだと思った。
変化していく町の姿は「これ以上変化できない」という辛さでもある。
最終巻になってようやく描かれる、それが起きる直前に、町の外で「花井沢出たいんだよねまじ」と語っている女の子の様子など、まるでエンドロールを見ているかのようなとりかえしのつかなさがあって、
最終話まで読み終えた後に1巻を読み返してみて、1話の時点で予言されていたことを思い出し、本当に丁寧に組み上げられた物語だなと感じました。

しんどいお話でしたが、巻末の2ページ漫画にそれを描く、というのが作者らしいな、と思った。

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