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ichinicsの主にマンガ日記

『悪魔を憐れむ歌』1巻/梶本レイカ

『コオリオニ』で知った梶本レイカさんの新連載作品。
『コオリオニ』が話題になった時によく言われていたように、香港黒社会ものや韓国ノワール映画が好きな人にはたまらない作品ではないかと思います。

悪魔を憐れむ歌 1巻 (バンチコミックス)

悪魔を憐れむ歌 1巻 (バンチコミックス)

『悪魔を憐れむ歌』は、『コオリオニ』と同じく北海道警察を舞台に、人体が箱型に折りたたまれて発見された未解決連続殺人事件、通称「箱折連続殺人事件」を追う主人公の物語。
一匹狼な主人公がそうとは知らずに真犯人に接近してしまうまでが第1巻で描かれているので、謎解きというよりは主人公がこれから巻き込まれていくであろう運命や、真犯人の目的があかされていく過程が今後の主題なのだと思います。

『コオリオニ』以降に過去作品もいくつか読んだのですが、たぶん作者は正義/悪、正気/狂気などが表裏一体となった、人のどうしようもなさ、業のようなものを描こうとしている人なのだと思う。その境目が反転するような瞬間の描き方が強烈で、正直1巻の段階ですでに読みながら思わず本を閉じたくなるような場面もあった。
けれど、この物語を作者がどう描いていくつもりなのか、それは絶対に読みたいと思う強い引力のある作品でもありました。

ホラー、サスペンス、ミステリーのどの要素がメインのお話になるのかはこれから次第だと思いますが、どれも構成の上手さが物語の面白さに如実に反映されるジャンルだと思うし、『コオリオニ』も過去と現在を行き来する語り口が、幾度読んでも完璧な編集だと感じたので、そういう点にも注目して読みたいなと思っています。
何より、『コオリオニ』で一度活動休止、という話も出た中で、こうして新連載が読めるのは本当にありがたいことだと思う。作者のサイト(http://tito.kilo.jp/)にあるメッセージもぐっときます。
続きが本当に楽しみです。

ichinics.hateblo.jp

『ハッピーバースデー』/ymz

ymzさんはpixivで知ってから大好きで、商業で活動されるようになってからも単行本を楽しみにしている作家さんです。
とにかく絵が好き!なのもあるし、お話がとてもやさしい…。
この『ハッピーバースデー』は、大学時代からの友人3人の人生のある一時期を描いた群像劇。
BL雑誌での連載作品ですが、メインの3人にはゲイもノンケもいて、彼らの恋愛と友情が優先順位のつけられない重要なこととして扱われている作品です。
会話の間みたいなところを丁寧に描く作者さんなので、物語のテンポはゆっくりしていて、ひとつのシーンが終わったあとの余韻みたいなものを感じながらゆっくり読み進めるのが楽しい。
この本はオープニングとエンディングの場面が重ねられていて、まるで1本の映画をみたような気持ちになる。
このシーンのカラー口絵が入っているのも嬉しかった…。
今後の作品も楽しみにしています!

ハッピーバースデー (Canna Comics)

ハッピーバースデー (Canna Comics)

お話の雰囲気的に、紀伊カンナさんとか絵津鼓さんの作品が好きな人は好きなんじゃないかな…? と思います!

『地球のおわりは恋のはじまり』1~4巻/タアモ

夜、布団の中で突然「少女マンガが読みたい!」という気分になってkindleで一気買いした漫画です。
今は布団の中でも本が買えるんですからすごい時代になったものですね…。

「いいことがあったらその分悪いことが起きる」と思っている主人公(真昼)が、かっこよくて優しい男の子(里見君)になぜか言い寄られて、「こんなにいいことがあったら地球が終わる」と思うというところから始まるお話。
真昼は、自分と同じ顔なのに快活で人気者な真夜と比較されて「じゃない方」といわれた過去があり、コンプレックスを持っている。
でも里見君が自分を選んだのにはちゃんと理由があって…というところで2人は恋人同士になります。
そして恋人同士になった後に、コンプレックスの原因でもある妹が里見君とおなじバイト先で働くことになって…等のトラブルが起こる…というあらすじ。
基本的にメインの登場人物は皆いい人で、行動のすれ違いによって誤解が生じ、それを解決していく、という流れになっているところがなんとなく今の少女マンガっぽい気がします。
両思いの状態でいろいろ起こる漫画は昔からあるけれど、起こるトラブルがわりと平和なので読んでいて安らぐ……。
自分はそんなに少女マンガをたくさん読んでるわけじゃないですけど、「俺物語」とか「となりの怪物君」も同じ系列ですよね。
そして恋人ができても解決されてはいない真昼のコンプレックスが解決されるところに漫画の最終的なハッピーエンドがくるのかな、と思います。

余談ですが里見君はちょっとpdlの今泉君に似てる気がします(見た目)。
かっこよくて、優しいんだけど少し悲しそうなので、里見君がおもいきり笑えるラストになるといいな…みたいな気持ちで安眠できました。

『1122』1巻/渡辺ペコ

2013年に完結した『にこたま』に続いて“夫婦”のあり方について描くお話になると思われる『1122』(と書いていいふうふ、と読む)1巻を読みました。
『にこたま』は、個人的には「過渡期にいる女性たちの物語」だと思っていて、子どもから母親へ、彼女から妻へ、と移り変わる過渡期にいる女性達の間にいる男性が、自分もまた移り変わらなければならないと決断をするお話だったかなと思います。
特に子どもを持つ、持たない、持てない、でも……という部分について作者が真摯に考え抜いた先の物語だなと感じたのが印象的でした。

『1122』は、仲がよいけれどセックスレスで、夫は妻公認の不倫をしている…という夫婦のお話。
妻の性欲はずっと「凪」の状態だったのだけれど、夫が不倫相手に恋をしていることを感じ始めてから、徐々にそのパワーバランスが変わっていく…というのがすごくリアル。
許可しているのは自分だ、というところに安心していたけれど、「でもさ、彼らの恋愛を いちこがドライブできるわけじゃないからね」って言われるところ、ああ恋愛って生き物だなあと思って怖くなった。
そもそも、その「公認不倫」が始まったのは、夫婦の間にある愛と性欲の結びつき方のズレが原因だった。

そうだよ「セックスくらい」のはずだった
のに
めんどくさがってないがしろにしているうちに
どんどんややこしく特別なものになってしまった
p93

逃げるは恥だが役に立つ』は契約結婚から恋愛結婚へと移行する過程で恋愛を免罪符にせずに互いの役割分担を話し合うというところが画期的なお話だったと思いますが、『1122』は、恋愛結婚から契約結婚に以降する課程で失われたものが妻と夫で異なっていた…という話になるのかもしれないなと思っています。

わたしが見たいのは
生きたいのは
“めでたしめでたし”のその先
そのずっと先なのです

という1巻ラストの言葉がとてもよかった。その先がどう描かれるのか、続きを楽しみにしています。

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「それでも町は廻っている」16巻(完結)/石黒正数

約10年間、発売と同時に単行本を読み続けていた『それでも町は廻っている』の最終巻を読みました。
長い連載を締めくくるのって、きっとすごく難しいと思うのですが、この16巻はとても、“それ町”らしい終わり方だったと思います。
真田君への片思いについて、ついにタッツンが歩鳥に物申すという友情(打ち合ってお前けっこうやるな的な)展開があり、進路について悩むことで仄かにこの生活の終わりと物語の外にある未来が提示され、ほろっとさせたところでコメディを貫き、でも最後に夢を見せてくれる。

第1巻の発売は2006年ですが自分の日記を見返してみると私が読み始めたのは2007年からのようでした。
1巻を買った場所はよく覚えている。当時の勤め先最寄りの書店2階に平積みになっていてポップを見て、面白そうだなと思って買ったのでした。そのとき隣に並んでいたのが『未来日記』だったのも何か印象に残っている。
1巻の感想を見返してみると「ドタバタコメディ」なんて書いているけれど、10年たって最終話を読み終えてみると、その印象はかなり違う(と思って2巻からの感想見返したら毎回「1巻読んだときの感想が嘘みたい」って書いてたけど…)。
コメディでありつつ、ミステリーだったりSFだったり、1話ごとに様々なアイデアが詰め込まれていて、読後の印象もそれぞれに違う。特に――って毎回書いてるのですが、9巻に収録されている「大人買い計画」というお話がとにかく好きで、そのときの感想を見ると

ミステリーから幻想文学になってSFで締める。星新一さんのショートショートを思わせる贅沢な短編でした。
http://ichinics.hatenadiary.com/entry/20110906/p1

って書いてあって、そんな風に、ほんと色んな読み方ができる、お花見弁当のようなシリーズでした。

長い連作作品は「日記」に似てるなと思うことがあります。
エピソードを誰の視点でどんな風に切り取るかで見え方は全く違うし、登場人物はほぼ一定だけど、起こる出来事は毎日違う。そしてその連なりを見ているうちに、その町や、人物のイメージが、掘り出されるように露になっていく。
新刊が出るたびに感想を書いてたわけじゃないけど、それなりに「この巻のこの回が面白かった!」とか日記に書いてあるのもアルバムみたいで、つまりこの10年はいずれ、丸子商店街の喫茶シーサイドに通ったなぁと、思い出す10年なのだと思います。

最終巻でも触れられているとおり、掲載順序は時系列順ではない…ということも知られていますが、いつかその時系列順に読み直してみたいなとも思っている。それで新たな発見があるのかないのか。なくてもそれはそれで。
石黒正数さんのこれからの作品もとても楽しみにしています。

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『潜熱』1巻/野田彩子

以前、新井煮干し子さん名義の『渾名をくれ』を読んだことがあり、絵柄や雰囲気が好きだったのと、連載が話題になっているのをTwitterなどでみていて楽しみにしていた作品。
本当に「潜熱」というタイトルがぴったりの作品でした。

潜熱(1) (ビッグコミックス)

潜熱(1) (ビッグコミックス)

主人公の女子大生、瑠璃が好きになったのは、バイト先によくタバコを買いに来る、たぶん父親より年上のヤクザである逆瀬川という男。
明確に年齢は書かれていないけれど、たぶん50代後半くらいなんじゃないかなと思います。もしかしたら60代という可能性もある…。
設定だけでなく、キャラクターを見ても、この2人が恋仲になるというのは想像しづらいのですが、でも読み進めていくうちに、というか読み始めてすぐに、ああこれは恋に落ちても仕方ないなと思っていました。

ここ2年くらいで、年齢差のある恋愛ものが少し流行っているように思います。ぱっと思いつくところだと「恋は雨上がりのように*1や「私の少年」「中学聖日記」など。
例えば「恋は~」は表紙もずっと女の子で、一見女の子が主人公に見えるんだけど、実は視点は「恋される側」である店長側にあることが多くて、女の子はあくまでもヒロインとして描かれている。なので、これは店長の夢オチでもおかしくない…と思いながら読んでます。

でも「潜熱」の場合、視線はあくまでも恋する側の瑠璃にある。
多少無理ある年の差に感じられても、主人公の視線を通すと抗えない好きがあって、それが読んでてすごく気持ちいいんですよね…。
特に主人公の眼線で見る、逆瀬川の手の色っぽさ…。
1巻の時点では、主人公は自分の熱に浮かされている状態で、相手との関係に名前をつけようとはしていない。そんな、秘めた熱がずっと燻っている状態に読んでてゾクゾクします。

ただ、逆瀬川はどこまで信頼できるかなんて全然わからない。
『渾名をくれ』を読んだときも、お互いに自己完結したまま相手を神格化しているお話だなと感じたのですが、この『潜熱』も扱ってるモチーフに近いものを感じました。
主人公の恋はこれからどこに向かうのか、続きがとても楽しみです。

comic-soon.shogakukan.co.jp

渾名をくれ (onBLUEコミックス)

渾名をくれ (onBLUEコミックス)

「BEASTERS」1巻/板垣巴留

動物たちが通う学園を舞台に描かれる、動物たちの「ヒューマンドラマ(作者コメントより)」。
主人公は演劇部に所属するハイイロオオカミのレゴシ。
物語はある日、学園でオスアルパカのテムが殺されていたところから始まります。
その事件をきっかけに、学園に通う草食動物たちは、同じ学園の生徒である肉食動物たちに疑いの眼を向けるようになっていくのですが、中でもレゴシはテムの死について思わせぶりな発言をしたうえに大型肉食獣である、ということでより多くの警戒の眼を向けられてしまいます。
しかし、レゴシはあくまでも虫を愛する物静かなハイイロオオカミ
結局レゴシがテムの死について言いたかったことについては無事誤解が解けるのですが、そこから演劇部の舞台製作過程でさらなる「事件」が起こってしまう。

レゴシの内面で、擬人化された動物としての「理性」と動物としての「本能」がせめぎあうシーンには色気すら感じる迫力がある。
そんなレゴシと対になる役割を持っていると思われるのが、演劇部の役者長、という役職につく学園のスター、アカシカのルイ。
肉食獣としての力を持っていながら頭を低くして暮らしていたレゴシと、草食動物でありながら肉食動物を恐れることなくそのカリスマ性をもっていつも堂々としているルイ。
今後はこの2人が学園の英雄的地位「ビースター」の座を競うお話しになるのかなーと思います。

肉食動物と草食動物が理解しあうことはできないのか? というテーマはディズニーの「ズートピア」を連想させるかもしれません。
しかしズートピアのテーマが「差別」と「偏見」であったのに対して、この「BEASTERS」は彼らの「本能」に重きが置かれているような気もします。

ところで、この作品は週刊少年チャンピオンで連載されているのですが、チャンピオンって面白い雑誌だなーと改めて思いました。
動物たちが魅力的に描かれている作品ながら、その絵柄は独特で、雰囲気はどちらかというと80年代の少女マンガ(特にレタリングとか…!)に近い。
これが週刊少年誌で連載してるっていうのが面白いし、でもチャンピオンはCMなどを見ていても「弱者に寄り添う」というテーマがあるような気もするので似合っているような気もする。
ともかく今後の展開がとても楽しみな作品です。