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ichinicsの主にマンガ日記

「A子さんの恋人」/近藤聡乃

新刊が出るたびにあれこれ言いながら読むのが楽しいシリーズ。
近藤聡乃さんのことは、昔NHKの番組で紹介されていた短編アニメーション作品「電車かもしれない」で知ったせいか、モノクロの、どこかおどろおどろしい作風、というイメージがあったのですが、エンターブレインからでていた「うさぎのヨシオ」でああ作者は漫画が好きなんだな、と改めて思い、そこからの「A子さんの恋人」でかなりイメージが変わりました。

作者が美大出身であるというということはもちろんこの作品にも生かされていると思うのだけど、メインの登場人物たちが「A子」「K子」「U子」「I子」「A太郎」「A君」などと名づけられているように、読む人が自分や身の回りにいる人を重ねて読みやすいお話になっている。
だからこそ、付き合うならA太郎かA君か、自分に似てるのは誰か、みたいな話で盛り上がるんだろうな、と思います。
しかもこの作品の登場人物は、ひとことで「こういう人」と言い難い人が多い。いいところもあれば悪いところも容易に浮かぶ(もしくは悪いところばかりに見えて、実はいいところもある)。
それがフィクションとしてはすごく新鮮で、でも身近にいるかも、と思わせるポイントなのかなと思います。
例えば単純にいい人として出てくる「田中君」がなぜ単純にいい人なのかというと、たぶん登場人物たちに興味を持たれていないからなんですよね(まあ実際単純にいい人な可能性もあるけども)。

物語は、「懐に入り込む男」であるA太郎と、「懐の深い男」であるA君との狭間で揺れる、主人公のA子、という構図を中心に描かれる。
ここでまず読者としてはA太郎かA君か、ということで悩むハメになるのですが、こっちは「断然A君でしょー!」(私はA君派)って決めてるのに、A子はいつまでもふらふらしているので、だんだん諸悪の根源はA子、みたいな気持ちになってくる。
そもそも2人はなんでA子が好きなわけ? とか酒を片手に詰め寄りたい。
そして話しを聞いているうちにA太郎のよさにも気付いてしまって、ああ人の色恋話って面白いな…というのが3巻まで読んだ印象です。
作者のインタビュー*1では、ラストはA子が「選ぶ」ようになると語られていたので、どう終わるのか、完結までやきもきしながら待ちたいと思います。

ただ上のインタビューを読んでひとつ意外だったのはA太郎の
「君は僕のことそんなに好きじゃないからだよ」
という台詞について、作者は

A太郎は、本当はA子に自分をもっと好きになってほしくて言ったんだと思いますよ。

と語られていたこと。
A太郎にそういう側面があったとは思わなかった!というのが正直なところだったので、これからまだまだ登場人物たちの、知らなかった側面が出てくるのかと思うと本当に楽しみです。
それでも私はA君派ですけどね…!(A君はA君で厄介な人だと思いますが)

A子さんの恋人 3巻 (ビームコミックス)

A子さんの恋人 3巻 (ビームコミックス)