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ichinicsの主にマンガ日記

今年面白かった漫画・商業BL漫画編

10年くらい毎年今年の漫画ベストを書いてきましたが今年は商業BL漫画のみに絞ってベストを書いてみたいなと思います。
BL作品は長らく決まった作家さん(雁須磨子ヤマシタトモコ、秀良子etc)のものだけを読んでいてあまり開拓できていなかったジャンルなんですが、一昨年くらいからちょっと本腰を入れて色々と読むようになりました。
とはいえ、今だにレーベルの違いとかがよくわかってない状態なんですけど、今年は旧作だけでなく新刊も読むようになったりしたので、この機会にちょっとまとめてみたい。(というかそもそも漫画だけブログ分けたのもBLの感想も書きたいなと思ったからなんでした)
とはいえ、これ良かったなーと思って奥付見たら昨年発売だったなんてのもあったのでランキングをつけられるほどの冊数ではないのですが、一応2018年発売作品のみに絞って8作品+番外編感想をメモしたいと思います。
(このラインが好きならこういうのも好きじゃないかなというおすすめ聞けたら嬉しいです。)

「オレ、その顔きらいです」/こいかわ

pixivを見ていて好きだった作家さんのおそらく商業デビュー作。
自分の顔が嫌いな主人公の隣人は、自分とそっくりな男だったと言うお話。相手を好きになっていくことが、そのまま自分を受け入れることにつながっている…と言う構成が好きでした。

オレ、その顔きらいです (B's-LOVEY COMICS)

オレ、その顔きらいです (B's-LOVEY COMICS)

「ラムスプリンガの情景」/吾妻香夜

初めて読んだ作家さんですが、アーミッシュ×夢破れたダンサーというカップリングを見て、どういうことだ…?と思い手に取りました。
読んでみたら、思った以上に思いっきりアーミッシュの生活にも踏み込んで描かれていてびっくりした。「ラムスプリンガ」とは、一度親元を離れ、アーミッシュの掟からも解放されて俗世で暮らす期間のことで、アーミッシュの子はこの期間を終えて、アーミッシュのコミュニティに戻るか、アーミッシュと絶縁して俗世でクラスのかを選ぶのだそうです。そんな習慣があること自体初めて知ったのですが、人並みはずれてピュアな男の子が、夢破れ男娼として生きていた男の子に出会う…と言う展開には、なるほど…と思うところがありました。ちなみに「このBLがやばい第1位」に輝いたそうです。

ラムスプリンガの情景 (ショコラコミックス)

ラムスプリンガの情景 (ショコラコミックス)

「ジェラシー」1、2巻/スカーレット・ベリ子

「四代目・大和辰之」を今年読んで面白かったので買った、その前日譚にあたる本。ヤクザ「明虎」と、そのヤクザに目をつけた(という印象)魔性の男「卯一」の話。とにかく卯一が厄介な人なんですけど、2巻にくると明虎も大概だなと言うことがわかる。明虎の妻も出てくるんですけどこの人がとてもかっこいいのが良かったです。

ジェラシー(2) (ディアプラス・コミックス)

ジェラシー(2) (ディアプラス・コミックス)

「よるとあさの歌Ec」/はらだ

前作がとても好きで、それ以降はらださんの本は全部買っている…。なので続編が出ると知った時は嬉しかったです。
バンドもので、お調子者のボーカル「朝一」と、朝一に憧れてバンドに加入した、人気No1のベース「ヨル」のCP。目立ちたがりでヨルに対抗心を燃やしつつ、自分のことが大好きなヨルが可愛い、という朝一の葛藤がかわいいです。朝一がかっこよくなりきれないとこがまた良い。

よるとあさの歌 Ec (バンブーコミックス Qpaコレクション)

よるとあさの歌 Ec (バンブーコミックス Qpaコレクション)

「24時間オチないKISS」/加藤スス

初めて読む作家さん。何きっかけで買ったのか忘れてしまったけど、すごく気に入ってて何回も読み返しました。化粧品会社のデザイナー男子とちょっとウザがられている上司のCP。
とにかく最後に掲載されている、付き合い始めた後のデートの話が大好きです。コミュニケーション不足な感じとか、無神経にあれこれ聞いて、正直に回答されたらちょっと凹んでしまう…って言う付き合いたての機微がとても細やかでグッときました。絵も好き。

24時間オチないKISS (バンブーコミックス moment)

24時間オチないKISS (バンブーコミックス moment)

「胸にとげさすことばかり」上下/雁須磨子

雁須磨子さんの漫画はいつも好きなんですけど、このお話もとても良かったです。(昨年でた「オロチの恋」も大好き)
教師だった父親にゲイであることを否定されてから家を出て暮らしていた主人公が、父の死をきっかけに地元に戻り、父と同居していたと言う自分と同世代の男に出会う…という話。
親に否定された経験をそう簡単には克服できない感じと、離れて暮らしていた間のことを知るたびに、頑なだった部分が少しずつ解れていく感じがとても丁寧に描かれていて、優しいお話だなと思いました。

「夜明けの序章」/三月えみ

表紙に描かれている2人の話は番外編で、メインとなるのは別の2人の話なんですけども、このメイン2人のお話がとっても好きでした。
高校3年生の主人公が、兄の急な転勤をきっかけに、卒業までの期間をクラスメイトの家(それまで暮らしていたアパートの大家)で暮らすことになる…と言うところから始まる話。
主人公と大家の息子はクラスメイトだけどそれまであまり会話をしたことはなく、でも実は…と言うのがわかっていく過程がもどかしくも可愛くてとても良かったです。
彼らが付き合い始めてからは遠距離になるんですけど、そのラストで2人の元クラスメイトが、2人の関係を知りとっさに「応援するし!」と声かけてくるところが良かった。こういう、興味本位ではない第三者の声をさらっと入れてくるお話が増えたような気がします(「胸にとげさす〜」もそうだった)。

夜明けの序章 (バンブーコミックス 麗人セレクション)

夜明けの序章 (バンブーコミックス 麗人セレクション)

「25時、赤坂で」/夏野寛子

Twitterで話題になっているのを見て買った本なんですけど、なんかすごいハマってしまい立て続けに何回も読み返してしまった。
モデル出身の人気俳優「羽山」と、その元後輩である新人俳優「白崎」が同性愛を題材にしたドラマで共演することになる…という話。役作りの一環として関係を持ち始める…と言う展開は王道なんですけど、演技上でのセリフと自分の気持ちがシンクロしていくところとかすごくグッとくる演出でした。
白崎くんのモデルに対する発言とか、それはどうかな?と思ったりもしたんですけど、まあそれも彼の若気の至りなのだろうと思う。
これが初めて読む作品だったんですが前作の「冬知らずの恋」もとても良かった。

25時、赤坂で (on BLUEコミックス)

25時、赤坂で (on BLUEコミックス)

番外編「メタモルフォーゼの縁側」/鶴谷香央理

75歳の老婦人がBLに出会い、それをきっかけに書店でアルバイトをする高校生の女の子と友人になっていく…というお話。
幾つになっても新しい趣味ができると言うのは楽しいことだし、同じ趣味について語り合う友人関係っていいものだなと思えてとても優しい気持ちになります。
それと同時に、いつまでも生きているわけではないので、続きをよろしくお願いしますと言う切実さもなるほどな〜と思ったりして、今このタイミングで十二国記を読み始められる幸せ(続きが出ると知って読み始めました)について考えたりもしました。
私も市野井さんみたいに幾つになっても新しいものに好奇心旺盛でいレたらいいなと思います。

メタモルフォーゼの縁側(2) (単行本コミックス)

メタモルフォーゼの縁側(2) (単行本コミックス)

余談

昭和元禄…のドラマ版が毎回すごかったことを覚えておきたい。漫画版とアニメ版も見たんですけどドラマ版を見てようやく八雲の願ってたことに気づいてしまったと言うか(勘違いだとしても)私がこのものが単離にハマる筋が見えてしまったと言う感じでした。
そうやって翻訳されることで気づくパターンてよくあるので、いろんな人の解釈を聞くのが楽しいのだろうなと思います。
雲田はるこさんに俄然興味が湧いて、雲田さんがラジオ(アトロク)でおすすめしていた「春を抱いていた」をまとめ買いして読んだりもしました。これについては色々思うところがあったのでまたいつか。

「違国日記」1巻/ヤマシタトモコ

以前から好きだけどこの数年で、ヤマシタトモコさんは私にとってすっかり特別な作家の1人になった。年に1回くらい、そろそろまた新鮮に読めるかな?って本棚から取り出して読んで、やっぱり私この漫画が大好きだー!って転げたくなる本が多い(そのルーティンをつい最近もやった)。そういう漫画家さんです。
昨年完結した「WHITE NOTE PAD」*1も大好きだったので、新作もとても楽しみにしてたんですが、この「違国日記」もやっぱり、とても好きな作品になりました。

「違国日記」は、両親を事故で亡くした高校生の「朝」と、その叔母である「槇生」が一緒に暮らし始める、つまり違う国の住人どうしが、一つ屋根の下で折り合いをつけていく物語。
槇生が不躾な親族に啖呵をきるシーンとか、少し気恥ずかしいほどにかっこいいのだけど、それは槇生が少女小説家という設定とあっているようにも思う。世代的に私は槇生の視点で読み始めていたので、だから大人になっても「国」を持つことは許されているんだなと思えるお話なのが心強いと感じました。
けれど、両親の死を「悲しめない」と戸惑う朝への対応や、友達からのメールへの返信になやむ場面などを読むうちに、これは特に「朝」の世代の子に読んでほしい漫画だと強く思った。
児童文学にはこういった、親がわりの存在と関わる物語って普遍的にあるけれど、漫画で扱われるのは近年そう多くないんじゃないだろうか。仕事柄「朝」の世代の子どもと関わることが多いのですが、「家族」を無条件に正しいものとして描かないお話というのは、特に今必要とされてるんじゃないかな、と思っています。
他人の前で感情を強制されないということの自由さ、別々の国に生きていることをそのまま肯定しているかのような心安さが読んでいて気持ちいい。彼らがこれからどのように国交を深めていくのか、続きがとても楽しみです。

「かしましめし」1巻/おかざき真里

あるきっかけで再会した元同級生3人がごはんをともにするようになる…というお話。
好きな人たちとおいしいご飯を食べる時間を通して、その底にあるそれぞれの悲しさとか切なさみたいなものがじわじわと癒えていく。

私たちは何度も生き返る
小さく小さくくりかえし 生まれ変わる

という冒頭の言葉の通り、ご飯を食べ、血肉とすることで、人の身体は少しずつ入れ替わっていく。そういう希望を描いたお話なんだろうなと思います。
特に、何か悩んでいることがあったとしても、それを口にすることが友情、みたいに描かないのがほんとうに優しくて好きだな…と思った。それぞれの問題はそれぞれに抱えていくこと、というのはおかざき真里さんのお話に共通するテーマのようにも感じます。

特にぐっときたのが、主人公の1人である男性が

カミングアウトする時は……
―-特に親に
「楽しい人生」を演じ続ける覚悟がなきゃだめよ

と言われるシーン。
セクシュアリティの問題だけでなく、マイノリティであることを選択するというのは多かれ少なかれそういうところがあって、
もし少しでも弱音を吐こうものなら「ほら間違っていたでしょう」と言われるんじゃないか、と気をはってしまうところが、あるように思う。
自分のあり方を後悔しているわけじゃないのに、「楽しい人生」を演じなければということを重荷に感じてしまう。
そのジレンマが苦しくて、でもそれを描いてくれてありがとうございます、と思いました。

あとこの「かしましめし」は出てくるご飯がどれもとてもおいしそうで、なおかつ作り方もかいてあるのが最高です!
なんと1巻なのでまた続くんですよね、嬉しいなぁ!
続きもとても楽しみです。

「あたらしいひふ」/高野雀

デビュー作「さよならガールフレンド」刊行時に特設サイトで公開されていたのを読んだことがあってえ、とても好きだったので楽しみにしていた単行本化。今も2話目までWEB上で読めるのですがかなり書き直されているのがわかってすごい…となりました。

あたらしいひふ (Feelコミックス FC SWING)

あたらしいひふ (Feelコミックス FC SWING)

その表題作は、女性4人それぞれの視点から描いた洋服についての物語。
服を選ぶのが苦手な人、武装するように服を着る人、無難なものばかり選んでしまう人、かわいいで強くなる人。
それぞれのやり方はどれも間違っていないし、でもその4人が仲良くなってお互いの世界を知ることで、きっと変化することだってできる、っていう可能性を提示して終わるのがとても好き。
洋服を着るって自分を表現することでもあるし、だから洋服を選ぶのは自分について考えることでもあるんだよな、ということを思いました。

「わたしの「かわいい」はお前には通じないかもだけど わたしの気持ちを強くしてくれるんだよ」

って台詞が最高に好きです。

読みながら思い出したのが、学生時代って、持ち物とかファッションとか、友だち同士で似た雰囲気になっていたなということ。
それはきっと目印でもあったんだなと思うんだけど、
大人になるにしたがって仲良くなるためのツールが増えて、ファッションもそのひとつなんだなと思えた瞬間に、自由だーって感じたことを思い出したりもした。

自分の容姿との折り合いをつけていく過程については作者の「13月のゆうれい」とも繋がる…と思ってたらあとがきに「あたらしいひふ」を描きなおす感じではじめた、と書かれていて、そう思いました! と思ったりもした。

ichinics.hatenadiary.com

13月のゆうれい  1 (フィールコミックスswing)

13月のゆうれい 1 (フィールコミックスswing)

「さよなら、おとこのこ」1巻/志村貴子

志村貴子さんのBL最新作。「娘の家出」が完結して今連載中なのは「こいいじ」と「淡島百景」でしょうか。多作でどれも面白くてすごい…。たくさん描いてくださってありがとうございますという気持ちでいつも新刊を手にとっています。

さよなら、おとこのこ(1) (ビーボーイコミックスデラックス)

さよなら、おとこのこ(1) (ビーボーイコミックスデラックス)

「さよなら、おとこのこ」は、主人公のかなで(25才)がなぜか小学生になってしまう…、というところからはじまるお話。
なんで子どもになってしまったのか、という謎を抱えたまま、そこに同棲中のユウキの弟が転がり込んでくる。
同性同士で付き合っているということも内緒なら、その恋人が小学生になってしまったということも内緒でさあ大変、という話になるのかと思いきや、物語は登場人物が増えるごとに、新たな事実がわかっていく構成になっていて、
1巻の終わりには、ついにかなでが「ユウキとの出会い」に疑問を抱くんですよね。
ブコメだと思って読み始めたのが、いつの間にかミステリーというかホラーというかサスペンスになっていたので、続きがとても気になります。
おそらくかなでが劇団員であること、そしてユウキの弟にライバル心を抱いていたことあたりが鍵になっていくのかなと思うんだけど、
演じるということと物語を描くということが現実にどう作用するのか、というSF的な話になるんだとしたらとても好きな題材だと思うのでとても楽しみです。

崖際のワルツ/椎名うみ

青野くんに触りたいから死にたい』の1巻が最高に面白くて気になっている椎名うみさんの短編集。
四季賞受賞作の『ボインちゃん』とその続編的な『セーラー服を燃やして』、それから表題作の『崖際のワルツ』の3編が収録されています。
青野くんに触りたいから死にたい』を読んだときに、作者はどの程度意識的に、主人公(刈谷さん)のずれた感じを描いている方なんだろうと気になっていたのだけど、この短編集を読んですごく腑に落ちたように思った。

『ボインちゃん』と『セーラー服を燃やして』に共通して登場する内藤さんは、自分のことを「空気読めない藤」と自称している。
『ボインちゃん』は、そんな内藤さんの「空気を読まなさ」に主人公(まおちゃん)が救われるお話。
そして、『セーラー服を燃やして』は、内藤さんの空気読まなさをそのまま受け入れているまおちゃんに内藤さんが救われるお話になっている。起きている出来事自体には恐ろしいところもあるんだけど、2人の関係をみるととても幸せな裏表に思える。
そしてその関係性を描くうえでの進化形ともいえるのが表題作『崖際のワルツ』なのだと感じました。

高校の演劇部で出会った「美少女だけど空気の読めない大根」と、彼女を演出しようとする演劇好きの少女。
そんな2人が演じる2人劇のやりとりがめちゃくちゃ面白い。
お互いを利用しているだだった関係が、舞台上で変化していく過程がものすごくスリリングかつ魅力的でした。

そして、この場面にこそ、『青野くんに触りたいから死にたい』の面白さの原点があるように思う。
作者は「刈谷さん」を演出している。でもそれは決して彼女を見世物にしようとしているのではなく、『崖際のワルツ』の2人のように、刈谷さんとワルツを踊っているのがきっと作者自身なのだと思った。

ichinics.hateblo.jp

「青野くんに触りたいから死にたい」1巻

年始に第1話がTwitterなどで話題になっていたのにつられて読んだときに、冒頭から1話の終わりまでみっちりおもしろくてすごいなと思ったのですが、そんな「青野くんに触りたいから死にたい」の1巻が、ものすごく、面白かったです。
とりあえずこの第1話を読んで面白かったら、1巻を買って損はないと思います。まだweb公開されるのでぜひ…!

www.moae.jp

第1話の時点で、切実さゆえのおかしみと切なさが溢れていて、数ページごとに笑いながら切なくなる、という複雑な精神状態に追い込まれるのですが、1巻まるごとその勢いが失速しないのがほんとうにすごい。
1話だけをみると、この2人はお互いのことをあまりよく知らないままのようにも感じるんですけど、1巻を読むとちゃんと幽霊と人間として関係を積み重ねていくので、ちょっとずれているところはあるけど、人を好きになるのって多かれ少なかれこんな風にちょっと変になることなのかもしれない…という気がしてきます。
特に、触れたいという願望を実現させるために生み出されたこの枕技の描写はすばらしいと思う。

この第1回では笑ってしまったけれど(この後の展開が天才だと思う)、繰り返されていくうちに、それが何であっても「触れた」と錯覚したいっていう気持ちのいじらしさが伝わってきてぐっときます。

1巻には新たなキャラクターが2人登場するのですが、どちらも主人公たちと同じくとても真剣だからこそのおかしみを伴いつつ、物語の速度を損なわない強いキャラなので、これからどう展開するのか、とても楽しみです。

2巻は10月発売予定ですが、来月には短編集もでるみたいなので楽しみ!!

崖際のワルツ 椎名うみ作品集: アフタヌーン

崖際のワルツ 椎名うみ作品集: アフタヌーン